血液浄化の工学的基礎知識 血液浄化の治療モード
こんにちは!もっちゃんです!!
今回は「血液浄化の治療モード」というテーマで記事を書いていきます。
今までの記事でもHFとかHDFなどの単語が度々登場していましたが、その時には詳しい説明をしていませんでした。
HD、HF、HDFは全て腎不全に対する治療です。
それぞれの治療モードにより特徴があって、患者さんに最適な治療モードを選択する必要があります。
これらの治療モードについてこれから説明していきます。
治療モードの概要
まずは各治療モードについて簡単に説明します。
HD(血液透析)
まずはHDについて説明します。
HD(Hemodialysis)とは血液透析の事です。
透析と聞いてまず思い浮かべるのがこの治療モードです。
HDとは血液と透析液が半透膜を介して触れ合っており、そこで拡散と限外濾過が行われる治療です。
血流量や透析膜によって溶質のクリアランスが決まります。


中々説明が難しいのですが、皆さんが働いている病院で最も多く行われているのがこのHDです。
なのでそれを思い出していただけると良いと思います。
HF(血液濾過)
次はHFについて説明します。ここからは一般的なHDと何が違うか?という点でお話します。
HF(Hemofiltration)とは血液濾過の事です。
HFとは拡散を行わずに濾過のみを行います。
注意しなければいけないのが、この濾過とは除水目的の濾過ではなく溶質除去を目的とした濾過です。
以前の記事でふるい係数の事を「濾過による溶質除去の指標」という説明をしましたが、まさにこの事です。
HFでは濾過による溶質除去を目的にしているので大量の濾過をします。
HDでの濾過(除水)は大体数百ml/hぐらいですよね。例えば600ml/hだと1時間に600ml濾過(除水)をするという事です。
これを1分間に換算してみると600/60で10ml/minとなります。
これがHFになると200ml/minとかの比べ物にならない量の濾過をします。
これは大量に濾過をしないと溶質が抜けないからです。
(あくまで溶質除去のメインは拡散です。濾過で拡散と同レベルの溶質除去をしようとするとそれだけ強い力で濾過をしないといけないのです)

でもそんなに大量の濾過をして患者さんは大丈夫なの?と思われる方もいるでしょう。
大丈夫なんです。濾過をした分だけ補液を入れるんです。
例えば200ml/minの速度で濾過をするならば同時に200ml/minの速度で補液をします。
こうすると患者さんが脱水になる事はないですよね。

ちなみにこの濾過をして同じ分だけ補液するというのを置換といいます。
濾過速度と補液速度をまとめて置換速度や置換液流量と言ったりします。

上のイラストがHFの回路図になります。
ここで何か気づいた人はいませんか?
そう。透析液が流れてないんです。
HFでは濾過で溶質除去をすると書いていますが、拡散の溶質除去は一切ないんです。そのため透析液は流れていません。
HDとの最大の違いはここです!
「拡散での溶質除去を行わずに濾過による溶質除去のみを行う」
では、なぜわざわざこんな事をするのでしょうか?
HFはマイルドな治療モードだと言われています。
拡散による溶質除去は強力です。BUNやCrなどの老廃物は一気に抜けてしまいます。
溶質が一気に抜けると体には結構な負担がかかります。それには浸透圧などが大きく関わっており、血圧低下などの透析困難症を起こす方もいます。
濾過による溶質除去は拡散に比べてゆっくりです。なので体への負担が小さいと言われています。
HFのメリット
- マイルドな溶質除去のため血圧低下などを起こしにくい
- 濾過による溶質除去のため大きい物質もある程度除去できる(ふるい係数の記事参照)
HFのデメリット
- 拡散が行われないため小さい物質の除去効率が悪い
- 補液をするラインが必要なのでHDに比べ回路が複雑
- 別途補液用の置換液バックが必要

ちなみにHFでも除水はちゃんとできます。
補液200ml/minに対して濾過を210ml/minにすれば10ml/minの除水になりますよね。
HFの保険適応
- 透析アミロイドーシス(中分子であるβ2-MGの除去効率が良いため)
- 透析困難症(上の文で説明しましたね)
- 緑内障(マイルドな溶質除去で浸透圧の変動が少ないため眼圧が上がりにくい)
- 心不全を有する患者(体への負担が少ない=心臓への負担が少ないというイメージでOKです)
HDF(血液透析濾過)
HDF(Hemodiafiltration)とは血液透析濾過の事です。
名称で分かるようにHDとHFを同時に行います。

いいとこ取りの治療ですね!
まずHDFの回路図を出します。

このイラストを見て分かるように濾過をしながらさらに透析液も流れています。
つまり血液透析+血液濾過=血液透析濾過ということですね。
HDの小分子除去能を持ちつつHFでの中・大分子も除去するという治療モードです。
HDFにはいくつかの種類がありますのでご紹介します。
オフラインHDF
通常HDFとだけ言うとこのオフラインHDFを指します。
これはHFと同じように別で補液用の置換液バックを用意して、そこから補液をするものです。

ただこの置換液バックを必要とするのでその分のコストがかかってしまいます。
オンラインHDF
オンラインHDFは透析液の一部を補液に使うというものです。

透析液は大体500ml/min程度の速度で流れていますが、そのうちの200ml/min程度を補液用として横取りします。
つまり実際ダイアライザに流れている透析液は300ml/minになります。
この方法だと置換液バックが不要なのでかなりのコスト削減になり、回路も簡単になります。
ひとつデメリットとして透析液を横取りするため拡散による溶質除去能が若干低下します。

拡散が低下した分は血流量や膜面積を調整して補う事が可能です。
現在はHDFというとこのオンラインHDFが主流になっています。
I-HDF
これは今までのHDFと比べて少し特殊です。
HFやオンラインHDF、オフラインHDFは補液ポンプという別のポンプを使用して継続的に補液を行うのですが、このI-HDFは間歇補液です。
つまり一定時間毎に決まった量の補液をするという事です。
例)30分毎に100mlの補液
この補液はオンラインHDFのように別の補液ポンプを使用するのではなくコンソール備え付けの「急速補液」の機能が使われます。
急速補液の機能を使うので別の補液用の回路を用意する必要が無く通常のHDと同じ回路で使用出来ることが特徴です。
循環動態の安定に良いとされています。
HDFの保険適用
- 透析困難症
- 透析アミロイドーシス
前希釈と後希釈
HFとHDFには希釈法というものがあります。
先ほど大量に濾過をする代わりに大量に補液をすると書いていましたが、その補液をどこに入れるかという違いで前希釈か後希釈かが分かれます。
後希釈とはダイアライザの後に補液をいれることです。
実際に濾過されるのはダイアライザですよね。
つまり患者さんから脱血した血液をそのまま濾過をします。すると濃ゆくなった血液がダイアライザから出てきますよね。そのまま患者さんの体に返す訳にはいかないので、濃ゆくなった血液に対して補液を入れてあげる事で薄くします。
それを患者さんの体に返すという流れですね。
後希釈では濃ゆい血液を濾過するので、あまり大量の濾過は出来ません。
大体30~50ml/min程度ですね。
濾過速度が血流量の1/3~1/4を超えると血液が濃ゆくなりすぎて膜が目詰まりする危険性が上がります。
前希釈とはダイアライザの前に補液を入れる事です。
前に補液を入れるという事はダイアライザに入る時には血液が薄くなっていますよね。
つまり薄い血液を濾過して、ダイアライザから出てくる時には通常の濃ゆさに戻っています。
薄い血液を濾過するので膜の目詰まりのリスクはかなり少ないのですが、その分多くの濾過を必要とします。

何となくイメージで元々薄い溶媒から濾過をしても少ししか溶質が抜けないって感じしますよね。
本当はもっときちっとした原理があるのですが説明が長くなるのでそれは今度説明しますね。
前希釈では大体200ml/min前後の速度で濾過をします。後希釈に比べてもかなり多いですよね。
一応理論上は血流量の2倍ぐらいまでは問題なく濾過できると言われています。

血流量200の2倍だと400・・・
普通はそんな速度で濾過しないですけどね
これだけ大量の濾過をするという事は補液の量も大量になります。
オフラインHDFで前希釈をしようとするとかなり沢山の置換液バッグが必要になってしまい(50L分ぐらい)コストもかかるので現実的ではないです。
そのためオンラインHDFで前希釈をするというのが一般的です。
まとめ
今日は「血液浄化の治療モード」というテーマで説明をしました。
HFは拡散を行わずに濾過のみで溶質除去をする治療モード
HDFはHDとHFを同時に行う治療モードであり、オンラインHDFやオフラインHDF、I-HDFといった種類がありました。
またHDFは前希釈か後希釈かで補液速度が変わり、大量置換を必要とする前希釈はオンラインHDFで行うのが一般的でしたね。
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