血液浄化の工学的基礎知識 血液浄化の治療指標
こんにちは!もっちゃんです!!
これまで8回に渡って「血液浄化の治療指標」について解説してきました。
今回はそのまとめの記事です。
各項目毎に簡単に解説をしています。
詳しい解説を見たい方は、詳細記事へのリンクを貼っておきますのでそちらを読んでみてください。
除去率
除去率とは治療の前後で何%の溶質が除去されたかを表す指標で、以下の式で表されます。
$R$=除去率
$C_{B}(O)$=治療前の溶質濃度
$C_{B}(t_{e})$=治療後の溶質濃度

また除去率は血液の希釈の影響を受けるといった特徴がありました。

Kt/V
Kt/Vとはどれだけ透析が出来ているかを表しており透析効率とも呼ばれます。
日本透析医学会のガイドラインにはKt/Vを最低1.2以上、目標を1.4以上にするように記載があります。
※Kt/Vが1という事は体液が1回透析されたとういう事。
このようにガイドラインで定められているのはKt/Vが低いと生命予後が悪いという研究結果が出ているからです。
Kt/Vは体格の大きな患者さんでは上がりにくい傾向があります。
水槽の浄水器をイメージすると分かりやすかったですね。
小さい水槽だと浄水器の能力も低くて良いですが、大きい水槽になるとその分浄水器の性能も良い物にしなければいけません。

Kt/Vは以下の式で表されます。

CB(T)/CB(o)の所がクリアランスを計算しているところですが、Kt/Vの計算では尿素(BUN)のクリアランスを使用します。
1-コンパートメントモデル
1-コンパートメントモデルとは体の体液を1つの入れ物と見立てる考え方です。
この考えはKt/Vやクリアランスなどを考えるのにとても重要な考えです。

溶質は全て血液中に存在するのではなく、細胞内や血管外など様々な場所に分布しています。
それをひとつひとつ調べるのは不可能なので、この1-コンパートメントモデルを使うのです。
そうする事でKt/Vやクリアランスの計算が容易になります。
2つのKt/V
Kt/VにはKt/VspとKt/Veという2種類が存在します。
ひとつめはKt/Vsp(single-pool)です。
これは体液を一つのコンパートメント(1-コンパートメントモデル)として考える事で導かれるKt/Vの事です。
上で説明した計算式で求められるKt/Vはこのシングルプールになります。
日本透析医学会のガイドラインではKt/Vspの使用が推奨されています。
ふたつめはKt/Ve(eqilibrated)です。
これはコンパートメントを考慮したものです。
コンパートメントとは上で説明したように溶質が体液の色んな場所に分布している事です。
溶質が細胞内から細胞外へ移動する時、細胞外から血液中に移動する時には細胞壁などの抵抗を受けてスムーズには通過出来ません。
そういった溶質のコンパートメント間の移動を考慮してKt/Vを計算したものがKt/Veです。
Kt/Veの計算式は以下の通りです。
n-PCR
n-PCRとは標準化蛋白異化率といって、体重1kgあたりに一日で摂取する蛋白質の量を表します。
n-PCRを求めるには1日で産生された尿素の量を求めます。
透析患者さんは体内の蛋白質の総量が一定です。
蛋白質が分解される速さは蛋白質が作られる速さと同じで、蛋白質が作られる速さは蛋白質を摂取した量と等しい事から尿素の産生量と蛋白質の摂取量が等しい事が分かります。
つまり、産生された尿素の量が分かれば摂取した蛋白質の量も分かるという事です。
n-PCRは以下の式で表されます。
$K_{R}$=残存腎尿素クリアランス
$\bar{C}$=平均血中尿素窒素濃度
$ΔC$=血中尿素窒素濃度の変化
$V$=総体液量
除去量
除去量とは実際に除去された溶質の量を表します。
除去された割合を表す除去率とは別物なので注意しましょう
除去量を測定するには透析液の廃液を採取して、そのなかの溶質の量を測定します。
文章で書くと簡単なのですが実際に測定しようとするとかなり困難です。
仮に500ml/minで4時間透析だと仮定すると500×60×4=120000ml=120Lの透析液が流れていることになります。
これを全量採取するのは不可能ですよね。
仮に全量採取できたとすれば除去量は以下の式で表されます。
$M$=除去量
$C_{D}$=廃液中の溶質濃度[mg/ml]
$V_{D}$=総廃液量[ml]
ただ、現実的には全量採取は不可能なので部分採取をします。
例えば5L分だけ採取するといった方法です。
部分採取は現実的に可能ではあるのですが問題点もあります。それが誤差です。
部分採取の場合は採取した廃液に含まれる溶質の量を理論上の総廃液量に変換して求めますが、あくまで計算値ですのでやはり実測値とは誤差が出てしまいます。
また、除去量は治療前の溶質濃度の影響を受けるという特徴があります。
クリアスペース
除去量から治療前の溶質濃度の影響を除いたものがクリアスペースです。
また、クリアスペースから患者さんの体格の影響を除いたものがクリアスペース率です。
クリアスペース
クリアスペース(CS)は除去量から治療前の溶質濃度の影響を除いたものです。
また、この名称の由来はクリアスペースは総体液量のうち濃度が0になった体積であると考える事ができるからです。

$CS$=クリアスペース
$M$=除去量
$C_{B}(0)$=治療前溶質濃度
クリアスペース率
クリアスペースは違う患者さん同士の比較には使えません。なぜかというと体格差があるからです。

この2人を比較したときにクリアスペースは同じですが、右側の患者さんの方が浄化されていないという事は何となくイメージで分かりますよね。
この体格差の影響を除いたのがクリアスペース率です。
クリアスペース率はクリアスペースを総体液量で割ったもので、総体液量の何%が浄化されたかを表します。

クリアスペース率は以下の式で表されます。
$V$=総体液量
%クレアチニン産生速度
%クレアチニン産生速度は筋肉量の指標になると考えられています。
クレアチニンとは筋肉が運動した時に産生される老廃物であり、筋肉量が多い方が産生される量が多くなります。
この特徴を利用して筋肉量を計算で求める事を可能にしたのが%クレアチニン産生速度です。

%クレアチニン産生速度は以下の式で表されます。
女性:$\%CGR=\frac{gint}{19.58-0.12y}×100$
$gint$=内因性のクレアチニン産生速度
まとめ
これまで血液浄化の治療指標について解説をしてきました。
複雑な計算や難しい言葉がたくさん出てくる分野ですが、ここをしっかりと理解できると客観的なデータで患者さんを見る事ができるようになります。
それが出来れば患者さんにより良い透析治療を提供できるようになるので頑張って勉強してみてください。
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