ダイアライザの性能 まとめ
今まで5回に渡って「ダイアライザの性能」について解説してきましたが、今回はまとめの記事になります。
5回分の記事を読んでくださった方もこの記事でもう一度振り返りをしましょう。
初めてダイアライザの勉強をする方も一度この記事を読んでみてください。
この記事を読んでいただければ『ダイアライザの基本的な性能』や『なぜ患者さん毎にダイアライザを使い分けているか?』がわかると思います。
また、この内容は全て透析技術認定士試験の範囲になっています。
認定士を目指している方は絶対に勉強しておく必要がある内容です。
クリアランス
最初はクリアランスについて振り返りを行います。
クリアランスとは拡散による溶質の抜けやすさを表す指標であり、以下の式で表されます。
$CL$=クリアランス
$C_{BI}$=ダイアライザ入り口の溶質濃度(溶質が除去される前の濃度)
$C_{BO}$=ダイアライザ出口の溶質濃度(溶質が除去された後の濃度)
$Q_{BI}$=入り口の血流量

この式の意味はダイアライザを流れる血流量の何割が浄化されたかを表す式でしたね。
例えば血流量200ml/minのうち8割が浄化されたとすれば、クリアランスの値は160ml/minになります。

ここでひとつアドバイスです。
僕の記事では何回も書いていますが、計算式をそのまま暗記するのではなく「イメージに変換」して考えると理解がしやすいですよ。
クリアランスには限外濾過を加味した計算式もありました。それが次の式です。
$Q_{F}$=限外濾過流量(1分あたりの除水量の事)

このような計算式になる理由ですが、限外濾過(除水)があると入ってくる血流量と出ていく血流量に若干に違いがありますよね。
それを補正するというイメージです。
次にクリアランスを考える上で絶対に忘れてはいけない特徴というものがありましたね。
つまりクリアランスの最大値は血流量と同じで、決して血流量を超える事はありません。
例)QB200ml/minの時のクリアランス最大値は200ml/min
またクリアランスは血流量と同じ単位(ml/min)で表されます。

以上がクリアランスについての簡単なまとめになります。
もう少し深く振り返りをしたい方は以前の記事を読み返してみてください
クリアランスに影響を与える因子
ここまででクリアランスがどんな指標か分かっていただけたと思います。
しかしクリアランスがどういったものか分かっただけでは実際の業務に生かせません。
いったいどうすればクリアランスが良くなるのか?悪くなるのか?という事を知っておかないといけません。
ここではクリアランスには何が影響を与えるのか?について振り返りをしていきます。
結論から先に記載するとクリアランスに影響を与えるのは血流量・透析液流量・限外濾過流量・透析膜の性能です。
血流量(QB)
クリアランス($CL$)の式は$CL=\frac{C_{BI}-C_{BO}}{C_{BI}}×Q_{BI}$でしたね。
この計算式を見て分かるように血流量(QB)を上げるほどクリアランスの値が高くなる事が分かりますね。

血流量を上げると純粋にダイアライザを通る血液の量が多くなるのでその分浄化される血液の量も多くなるという事ですね。
また、今説明しているクリアランスの式は血液側を視点にした考え方です。
要は血液中の溶質がどれだけ除去されたかを計算しているという事です。
透析液流量(QD)
先ほどまでのクリアランスの式は血液側を視点にした考えでした。
今度は透析液側を視点にした式を考えてみます。
透析液側を視点にするという事は溶質がどれだけ透析液中に入ってきたかを表します。
$C_{DO}$=透析液出口側の溶質濃度(血液から透析液側に抜けてきた溶質の濃度)
$C_{BI}$=血液側入り口の溶質濃度
$Q_{DO}$=出口側の透析液流量
「透析液に入ってきた溶質濃度」は「血液から除去された溶質濃度」と一緒です。
それを踏まえてこの計算式を変換してみると$\frac{C_{BI}-C_{BO}}{C_{BI}}×Q_{DO}$になります。
今まで説明していたクリアランスの式とほぼ同じになりましたね。

$\frac{C_{BI}-C_{BO}}{C_{BI}}$
この部分で何割の溶質が移動したかを表していて、ここに$Q_{DO}$もしくは$Q_{BI}$かける事でクリアランスが算出されます。
限外濾過
$$CL=\frac{C_{BI}-C_{BO}}{C_{BI}}×(Q_{BI}-Q_{F})+Q_{F}$$
この式は限外濾過を加味したクリアランスの式でした。
限外濾過(除水)をする事で血流量が入り口側と出口側で変わってしまう分を補正する為の式でした。

入り口と出口の血流量が変わってしまうというのは、
入り口の血流量が200ml/minで10ml/minの除水があると出口側の血流量は190ml/minになるという事です。
ここまでの内容はこの記事で詳しく説明しています。
膜の性能
クリアランスには膜の性能も影響します。
その性能というのが総括物質移動面積係数です。
この総括物質移動面積係数とは膜自体が持っているクリアランスです。
総括物質移動面積係数は以下の式で表されます。
総括物質移動係数は以下の式で表されます。
$$\frac{1}{K_{O}}=\frac{1}{K_{B}}+\frac{1}{K_{M}}+\frac{1}{K_{D}}$$
$K_{O}$=総括物質移動係数(物質の取りやすさを全て足したもの)
$K_{B}$=血液側境膜物質移動係数(血液側の境膜を通る時の通りやすさ)
$K_{D}$=透析液側境膜物質移動係数(透析液側の境膜を通る時の通りやすさ)
$K_{M}$=膜透過係数(透析膜を通過する時の通りやすさ)
総括物質移動係数は簡単に言うと膜の厚さや膜に開いている穴の大きさによる物質の通りやすさを表しています。
総括物質移動面積係数は簡単に言うと穴の数です。
穴の数は透析膜の面積が大きくなる程増えていきます。そして、穴の数が増える程物質は通りやすくなります。
次の式は総括物質移動面積係数とクリアランスの関係を表した式です。
$CL$=クリアランス
$Q_{B}$=血流量
この式を見てみると総括物質移動面積係数を大きくするほどクリアランスが大きくなるという事が分かりますね。
超重要なクリアランスの特徴
クリアランスは血流量を超えないと説明しましたが、総括物質移動面積係数と透析液流量も同じでクリアランスがこれらを超える事はありません。
$K_{O}A$の値は分子が小さいほど高くなります。例で言うと尿素60Daの場合の$K_{O}A$の値は600~900ml/minです。
では尿素のクリアランスが600ml/minとか900ml/minになるかと言えばそうではありません。
仮に血流量を200ml/minだと仮定すると「クリアランスは血流量を超えない」という性質があるためクリアランスの最大値は200ml/minになります。

つまり小分子の除去効率を上げるためには血流量を上げるのが一番効果があるって分かりますよね!
逆に分子量が大きい物質の場合は$K_{O}A$の値は小さくなります。
例えばミオグロビン(17,000Da)のように大きい物質の$K_{O}A$は60ml/min程度です。
クリアランスは総括物質移動面積係数を超えないという性質があるためクリアランスの最大値は60ml/minです。
さっきと逆の関係になりましたね。

つまり小分子の場合とは逆に大分子の除去効率を上げるには膜面積を大きくしたり膜の種類を変えるのが効果的だという事です。
ここまでの内容は以下の記事で詳しく説明しています。
濾過係数・限外濾過率
これまではクリアランス、つまり拡散による溶質の除去について説明してきましたが、ここでは溶媒(水)の移動について解説します。
溶媒の移動に関係する指標が濾過係数と限外濾過率です。
濾過係数とは透水性(水の通りやすさ)を表す指標です。
一定の圧力をかけた時にどれだけ水が通り抜けるかによって算出されます。
$L_{P}$=濾過係数
$T_{F}$=濾過時間(圧力をかけ続ける時間)
$V_{F}$=時間$T_{F}$の間に得られた濾液量(通り抜けた水の量)
$TMP$=膜間圧力差(膜にかかる圧力)
$A$=膜面積
$V_{F}$(濾液量)とは膜にかかっている圧力(TMP)と時間、膜面積が大きくなるほど増加していきます。
濾過係数$L_{P}$とは純粋な膜性能による透水性を見るものなのでそれらの値を除外しなければいけません。
つまり$V_{F}$をTMP、時間、膜面積で割ってあげる事で$L_{P}$が求められます。
限外濾過率とは濾過係数に膜面積をかけた値です。
クリアランスの時にも説明しましたが膜を大きくするほど溶質の除去は良くなりましたよね
この考えは溶媒の移動でも同じで膜面積が大きくなるほど水が通りやすくなります。
それが限外濾過率です。(総括物質移動係数と総括物質移動面積係数の関係と同じですようなイメージです)
この内容の詳細はこの記事をチェック
ふるい係数
主に溶媒の移動は濾過によるものですが、実は濾過では溶質も移動します。
濾過により溶質が移動する条件は『溶質の大きさが細孔よりも小さい』事です。
そしてこの濾過による溶質の移動に関する指標が今から説明するふるい係数です。
濾過により溶質が移動する時にはその溶質の大きさによって膜に制限を受けます。
つまり溶質の大きさや膜の細孔の大きさによって溶質の通りやすさが変わってきます。これがふるい係数です。
$$SC_{2}=\frac{2C_{F}}{C_{BI}+C_{BO}}$$
$$SC_{3}=\frac{ln(C_{BI}/C_{BO})}{ln[(C_{BI}-C_{F})/(C_{BO}-C_{F})]}$$
$C_{F}$=濾液中溶質濃度(濾液の中にどれだけの溶質が含まれているか)
$C_{BI}$=血液入り口側溶質濃度
$C_{BO}$=血液出口側溶質濃度
ここで3つの式が出てきました。この式はいずれも見かけのふるい係数を表しています。
$SC_{1}$は簡単な式で計算も簡単ですが血液側の出口側濃度が加味されていなかったりして確実に正しい値だとは限りません。
$SC_{2}$と$SC_{3}$は実際の数値に近くなりますが計算が複雑になります。
ふるい係数はどんな時に使うの?
クリアランスで説明したように溶質の移動は主に拡散で行われますが、溶質の分子量が大きい時は拡散だけでは中々除去出来ません。(総括物質移動面積係数が小さくなる為)
そんな時に濾過による溶質の除去を行います。
濾過によって溶質を除去する時にふるい係数を使います。
ふるい係数についてはこの記事に詳しく記載していますので振り返りをしてみてください。
まとめ
ダイアライザの性能について解説してきました。
難しい計算式や初めて聞く単語がたくさん出てきました。すぐに完全に理解する事は難しいと思いますが諦めずに頑張って勉強してください。
この分野は透析技術認定士の試験にも確実に出題されますので時間をかけてでも理解する価値があります。
もし分からない所があれば質問も受け付けていますのでコメント欄かTwitterのDMで質問してください。
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