透析技術認定士試験範囲 『血液浄化の工学的基礎知識』 吸着
シリーズ4回目になりました。引き続き『血液浄化の工学的基礎知識』の分野を解説していきます。
今回はその中でも吸着ついて説明します。
繰り返しになりますが、この記事の対象者は『新人から一人前にステップアップしたい方』『現在透析技術認定士を目指している方』『透析についてもう少し勉強したいけど何を勉強したらいいか分からない方』です!
この分野を始めて勉強する方も苦手な方も安心してください。全部教えます。
吸着による血液浄化の基礎
透析の原理は『拡散』と『限外濾過』でしたね。
他の血液浄化療法には実は他にも重要な原理があります。それが『吸着』です。
吸着とはある物質が他の物質を取り込み、除去する事です。

身近な例で言うと冷蔵庫に入れたりする脱臭炭って商品がありますよね。
これは活性炭という物質なのですが、あれはその活性炭が匂いの物質を吸着・除去する事で匂いが消えているんです。
吸着の原理
ここでは吸着についてもう少し詳しく説明していきます。
まずは用語の説明です。
- 被吸着物質→吸着される物質
- 吸着材→吸着する物質
- 親和力→異種の物質が結合する力(要は物質同士がくっつく力の事)
- 脱着→吸着の逆。物質同士が離れる事
- リガンド→吸着材の事。医療用の吸着材はこう言われる事が多い
親和力の種類
一言で親和力と言っても色んな種類があります。
種類毎に結合の強さや選択性などに特徴があります。

〇結合が弱い(物理化学的相互作用)
・分子間引力(ファンデルワールス力)
分子の接近により分子の間に引き付けあう力が働くこと
・静電力(静電結合)
電荷を持つ物質同士が引き合う、又は離れていく力の事を静電力といいます。それぞれ+とーの電荷を持つイオン同士が結合したものをイオン結合という。
磁石のようなものをイメージすると分かりやすいと思います。(+とーがS極とN極のような関係性)
〇結合が強い(生物学的相互作用)
・抗原抗体結合
生体に異物が混入した際に抗体と抗原が特異的結合する反応
・補体結合
抗原抗体複合体(抗原と抗体が結合したもの)と補体が結合する反応。補体とは抗体や貪食細胞を補助するタンパク質の事

このように親和力には色々な種類があります。
吸着したい物質に対しどんな吸着剤を使うとどんな親和力が発生するかという事を考えてリガンドは開発されています。
吸着カラム
カラムとは入れ物の事です。ダイアライザでいうハウジングと同じですね。
カラムの中には吸着剤が充填されており、カラム内を血液や血漿がとる事で被吸着物質と吸着剤が触れ合います。
カラムへの灌流方法には直接血液灌流法と血漿灌流法があります。
・直接血液灌流法
患者血液をそのまま吸着カラムに灌流する方法

透析でよく使うリクセルはこの直接血液灌流法になりますね。
・血漿灌流法
血漿分離機で分離した血漿のみをカラムに灌流させる方法

固定層吸着
固定層吸着とはカラムの中に吸着剤を詰め、血液や血漿などの溶液を連続的に灌流させるもの。
固定層吸着には吸着帯というものが存在します。吸着帯とは物質の吸着が実際に行われている領域の事です。
血液(もしくは血漿)をカラムに流した場合、入り口側の吸着剤がまず血液に触れます。入口側でほとんどの被吸着物質が吸着されるので出口側には被吸着物質が残っておらずほとんど素通りのような状態です。
時間の経過とともに吸着帯は出口側に移動していきます。

たくさんの物質を吸着すると、それ以上吸着出来ない状態(飽和状態)になり、その部分では吸着できなくなります。
出口側の吸着材はまだ飽和していない状態なので、次はそこで吸着が行われます。
これが吸着帯が出口側に移動していく仕組みです。
最終的に吸着帯がカラム出口に到達し、そこまで飽和してしまうとそのカラム全体の吸着能力が無くなった事になります。
この状態を破過と言います。破過を起こすと被吸着物質をそれ以上吸着出来なくなるため、その物質の濃度が急上昇してしまいます。

この破過は時間経過とともに起こりますので、医療用吸着剤(リガンド)の使用時間は添付文書などでしっかりと確認するようにしてください。
まとめ
今日は血液浄化療法の中でも吸着に関してお話しました。
吸着とはある物質が他の物質を取り込み、除去する事でしたね。
親和力には色々な種類があり、それぞれ結合の強さが違いました。主な親和力は分子間引力・静電力・抗原抗体結合・補体結合でしたね。
灌流法には直接血液灌流法と血漿灌流法があり、透析でよく使われるリクセルは直接血液灌流法でした。
固定吸着層という考えがあり、治療時間と破過には重要な関係性がある事を説明しました。

聞き慣れない言葉がたくさん出てきたと思いますが、しっかり理解するためにもう一度復習しておきましょう。
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