『血液浄化の工学的基礎知識』 ふるい係数
前回の記事で透水性に関する指標である「濾過係数」と「限外濾過率」を解説しました。
主に溶媒の移動は濾過によるものですが、実は濾過では溶質も移動します。
濾過により溶質が移動する条件は『溶質の大きさが細孔よりも小さい』事です。
そしてこの濾過による溶質の移動に関する指標が今回説明する
ふるい係数です。

今回も中々難しい内容になりますが、なるべく分かりやすいように解説していきますのでご安心ください。
濾過による溶質の移動
濾過により溶質が移動する場合には以下の3つのパターンが考えられます。
- 濾過とともに溶質が膜を通過する
- 濾過に伴い溶質の一部は膜を通過するが、残りは膜で阻止される
- 濾過に伴い溶質は膜に向かって運ばれるが、膜で完全に阻止される
小さい物質は濾過とともに膜を通過するが、物質が大きくなるにつれて膜に制限を受けるようになる。
細孔よりも大きくなってしまうと膜を通過できなくなってしまう。
このように物質がどれだけ膜を通過できるかによって血液側と濾液側の物質の濃度が変わってきます。

ふるい係数
上記のように物質の大きさによって濾過でどれだけ膜を通過するかが変わってくる。
濾過に伴って溶質がどれだけ移動できるかを表した指標がふるい係数です。
ふるい係数には「見かけのふるい係数」と「真のふるい係数」がありますが、これから説明するのは「見かけのふるい係数」です。
これは「真のふるい係数」の評価が困難だからです。
見かけのふるい係数は以下の式で表されます。
$$SC_{2}=\frac{2C_{F}}{C_{BI}+C_{BO}}$$
$$SC_{3}=\frac{ln(C_{BI}/C_{BO})}{ln[(C_{BI}-C_{F})/(C_{BO}-C_{F})]}$$
$C_{F}$=濾液中溶質濃度(濾液の中にどれだけの溶質が含まれているか)
$C_{BI}$=血液入り口側溶質濃度
$C_{BO}$=血液出口側溶質濃度
ここで3つの式が出てきました。この式はいずれも見かけのふるい係数を表しています。
$SC_{1}$は簡単な式で計算も簡単ですが血液側の出口側濃度が加味されていなかったりして確実に正しい値だとは限りません。
$SC_{2}$と$SC_{3}$は実際の数値に近くなりますが計算が複雑になります。

3つも式があると正直困りますよね。
使う側とすると一つだけにしてもらった方が助かるのですが・・・
個人的には$SC_{1}$の式だけ覚えておけば良いかなとは思います
ふるい係数ってどんな時に考えるの?
ここまでふるい係数について解説してきましたが、実際なんの為の指標なの?クリアランスと何が違うの?と疑問を持った方もいるかと思います。
実際にこのあたりを詳しく書いている書籍とかはあまりないです・・・
ここではクリアランスとふるい係数の使い分けについて解説します。
まずはクリアランスについて思い出してみましょう。
クリアランスとは拡散による溶質の移動の事で$Q_{B},Q_{D},K_{O}A$のうち一番小さいものを超えないという特徴がありました。
ここで注目して欲しいのは$K_{O}A$です。$K_{O}A$は小分子だと値が大きく、大分子だと値が小さくなるという特徴がありました。
ということは分子量が大きい物質を除去しようとした場合のクリアランスは$K_{O}A$を超えないという事になりますね。
大分子の除去効率を向上させようとすると$K_{O}A$の値を大きくする必要があるので膜の面積を大きくするか、膜の種類を変えるしかありませんよね。
でも膜面積には限界がありますし、膜の種類も限りがあります。
限界まで膜面積を大きくしても大分子の除去効率が足りないとなった場合はどうすれば良いでしょうか?
そこで考えるのが濾過です。
拡散で除去できないなら濾過で除去すれば良いんです。
そして濾過によって溶質を除去するときに考えるのがふるい係数です。
実際にはβ2マイクログロブリン(11800Da)以上の物質を除去する時は濾過を検討します。
濾過での除去はHF(血液濾過)やHDF(血液透析濾過)を行ったりするのですが、それについてはこちらの記事で解説しています。

簡単にまとめると大きい物質の除去効率を上げようと思った時は、濾過を行う事で効率をあげる事が出来て、濾過での溶質除去をする時はふるい係数を考えるという事ですね。
まとめ
今回はふるい係数について解説しました。
ふるい係数とは濾過によって溶質を除去するときに使う指標でしたね。
また、濾過で溶質を除去するのは分子量が大きくて拡散では十分に除去出来ないような物質に対して濾過で除去するのでした。
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